・My Beautiful Dark Twisted Fantasy / Kanye West
・Contra / Vampire Weekend
・How I Got Over / The Roots
・B.o.B Presents: The Adventures Of Bobby Ray / B.O.B
・Wake Up! / John Legend & The Roots
・Soldier of Love / Sade
・Relayted / Gayngs
・The Fall / Gorillaz
・Pink Friday / Nicki Minaj
・Man On the Moon two: The Legend of Mr.Rager / Kid Cudi
カニエは本当に期待通りのクラシック。収録曲を一曲づつ毎週公開してゆくという斬新な方法も面白かった。ランナウェイから最終曲にかけての高揚感が素晴らしい。ロックは、あまり熱心に聴いた方ではないがヴァンパイアウィークエンドには心を奪われた。フォーマットとしてはアフロビートmeetsロックという方法論だが、その背後にあるしなやかな感性に今後も期待したい。賛辞になるのかわからないが、シーンに対する影響力として、ポストレディオヘッドに一番近いバンドではないかと考える。Gayingsは新人とは言えないが、シャーデーをカバーするセンスやAORという親父の加齢臭バリバリなジャンルに新しい息吹を吹き込んだ斬新な視点を支持したい。最後の最後に発表されたゴリラズのthe Fallはファンクラブのみのフリーダウンロードということだったが、iPadのみで作成したというシンプルではあるがボトム感のあるビートに陰鬱なデーモンの歌声が乗るというファーストアルバムの原点に立ち返った作品という印象を受けた。傑作ではないが佳作。
シャーデーのSolider of Loveも相変わらず抑制の効いた作風ではあるが、ブラックミュージックにおける独特の佇まいはさすがだし、ラッパー達によるビートジャックや賛辞ともどもを含んでの評価。ここ数年がっかり作品が続いたThe RootsのHow I Got Overも久々の快作だった。生バンドとしての暖かさという原点に立ち戻った有機的な作品だった。姉妹作品としてジョンレジェンドとのジョイントアルバムもランクイン。
若手では、B.O.Bとカディ、ニッキーミナージュ。B.o.Bは音楽誌では散々にこきおろされていたが、ヒップホップ的な純粋主義がもてはやされるなかでの潔いまでのクロスオーバー的作風はあえて評価されるべきだと思う。「B.o.Bはアイドルでもはやラッパーじゃない!」なんていうヘッズの批判に答えるべく12月に突如発表されたミックステープの質の高さを見ても、今後の動きが最も気になるアーティストの一人である。カディさんはファーストからのコンセプトをしっかりと保持するストイックな佇まいに敬意を表したい。サイケデリックとヒップホップの異種配合がますます深化している。ニッキーミナージュは予想以上だった。ヤングマネー一派として、あの手のサウス風の内容であれば一切食指は動かなかったが、ハウス等の最先端のクラブミュージックを取り入れたサウンドは今年のUS作品の中でもひたすら異彩を放っていたと思う。ルックスからガガと比較されがちだが、ガガなんかよりもよっぽど先鋭的な音だと思う。
以上、今年最も印象に残った10枚をセレクトしてみた。
個人的によかったミックステープ
・The Free EP / Actual Proof
・BLVCK Diamond Life / Droop-E
・Stay Hungry Stay Foolish / ham-R
・Friday Night Lights / J-Cole
・Overly Dedicated / Kendrick Lamar
・K.I.D.S / Mac Miller
・Laced Up / Raz Fresco
・Paradise Falls / Mansions On the Moon
・Viki Leekx / M.I.A.
今年だけで一体何枚のミックステープが世に出たのだろう。
若手であればデビュー前のプロモーションとして、ベテランはラッパーとしての力量を示すための表現方法としてミックステープを発表することが、もはや「あたりまえ」となった今、リミックスや他人のビートをジャックした「寄せ集め」ではなく、自前のビートに書き下ろしのラップをのせ、構成も一枚のアルバムとして作り込まれた作品が多く発表されるようになった。ミックステープの発表に至るまでも、数曲をリークさせ、トラックリストを発表、場合によってはティザーまでYouTube上で公開するといった、もはや販促グッズの域を超えたものとなっているのは興味深い。リルウェインやドレイクによってミックステープという表現技法が爆発的に拡散していったのが2009年ならば、その存在意義や価値が大きく変質していったのが2010年ではないかと思う。
J ColeやKendrick Lamar等は正規発表のアルバムが無いにも関わらず、ミックステープに対する注目度はメジャー級であるといえる。前者は、Roc Nation(Jay-Zのレーベル)が後ろ盾になっていることも大きいが今年ベストともいえる質のミックステープだった。後者のコンプトンの新人Kenrick Lamarは無料公開の前に一度iTunes Storeで有料プレミア(それでも600円くらい)を行った後に、全く同じ内容を無料公開するというユニークな手法で注目を集めた。そもそもCDの売れないこの時代に、Amazon.comのデジタル販売を見てもアルバムの単価は500円ほどに値崩れを起こしており、アーティスト自身によるネット上でのミックステープの公開が、正規アルバムの公開にとって変わる日もそれほど遠くないような気がする。(「レコード産業の崩壊は間近」と預言したトム・ヨーク御大のお言葉がいよいよ現実味を増してきた。)
ネットインフラの確立とPCによる編集作業の手軽さは十代の若手ラッパー達にもますます作品発表の機会を広げている。ピッツバーグの白人キッズのマックミラーはミックステープ発表後も収録曲のPVを次々に発表することでファンを楽しませ、散々延期した後にやっとのことで新作ミックステープを発表したカナダのRaz Frescoもビデオや曲のリークを少しづつ行うことでミックステープへの期待を高める一方で、自身のサイトでビートを売るなど商魂もたくましい。ともに、10代の若者であることはおどろきだ。
また、このミックステープ狂想曲はここ日本にも飛び火し、瞬く間にフリーダウンロードやリークといった言葉が飛び交うようになった。なかでもham-Rのミックステープの連作発表は注目に値する。上にも書いたが、カニエウェストが毎週新曲をただで発表する方法を行って以来、USでもスウィズビーツやティンバランドといった大物プロデューサーがさっそく真似を始めたが、ham-Rはなんとミックステープを毎月発表するとラップした。この言葉は偽りではなく、これまでで通算5枚のミックステープが発表されている。そのうち、一枚(Future Vintage)は全編オリジナルビートで構成されたアルバムとも言うべき大作であった。そもそもUSとは異なり、ヒップホップ自体がドル箱産業ではない日本で無料で音源を公開することはリスキーであるとの見方もあると思うのだが、ham-Rをはじめとした多くの若手ラッパーはこぞってミックステープやフリーダウンロードの曲を公開しており、Jラップルネサンスとでもいうべきムーブメントになりつつある。
また、ミックステープという表現手段はヒップホップ以外のジャンルにも広がりつつある。マンションオンザムーンはどちらかというとエレクトロポップの出身であるが、デビュー前からディプロの主宰でミックステープが発表され話題を呼んだ。M.I.A.も大晦日にミックステープを発表した。ヴァンパイアウィークエンドのようなバンドがアルバム発表前にリミックス音源でミックステープを発表する日も近いのかもしれない。2011年もミックステープシーンの動向にも注目したい。
・Viki Leekx / M.I.A.
今年だけで一体何枚のミックステープが世に出たのだろう。
若手であればデビュー前のプロモーションとして、ベテランはラッパーとしての力量を示すための表現方法としてミックステープを発表することが、もはや「あたりまえ」となった今、リミックスや他人のビートをジャックした「寄せ集め」ではなく、自前のビートに書き下ろしのラップをのせ、構成も一枚のアルバムとして作り込まれた作品が多く発表されるようになった。ミックステープの発表に至るまでも、数曲をリークさせ、トラックリストを発表、場合によってはティザーまでYouTube上で公開するといった、もはや販促グッズの域を超えたものとなっているのは興味深い。リルウェインやドレイクによってミックステープという表現技法が爆発的に拡散していったのが2009年ならば、その存在意義や価値が大きく変質していったのが2010年ではないかと思う。
J ColeやKendrick Lamar等は正規発表のアルバムが無いにも関わらず、ミックステープに対する注目度はメジャー級であるといえる。前者は、Roc Nation(Jay-Zのレーベル)が後ろ盾になっていることも大きいが今年ベストともいえる質のミックステープだった。後者のコンプトンの新人Kenrick Lamarは無料公開の前に一度iTunes Storeで有料プレミア(それでも600円くらい)を行った後に、全く同じ内容を無料公開するというユニークな手法で注目を集めた。そもそもCDの売れないこの時代に、Amazon.comのデジタル販売を見てもアルバムの単価は500円ほどに値崩れを起こしており、アーティスト自身によるネット上でのミックステープの公開が、正規アルバムの公開にとって変わる日もそれほど遠くないような気がする。(「レコード産業の崩壊は間近」と預言したトム・ヨーク御大のお言葉がいよいよ現実味を増してきた。)
ネットインフラの確立とPCによる編集作業の手軽さは十代の若手ラッパー達にもますます作品発表の機会を広げている。ピッツバーグの白人キッズのマックミラーはミックステープ発表後も収録曲のPVを次々に発表することでファンを楽しませ、散々延期した後にやっとのことで新作ミックステープを発表したカナダのRaz Frescoもビデオや曲のリークを少しづつ行うことでミックステープへの期待を高める一方で、自身のサイトでビートを売るなど商魂もたくましい。ともに、10代の若者であることはおどろきだ。
また、このミックステープ狂想曲はここ日本にも飛び火し、瞬く間にフリーダウンロードやリークといった言葉が飛び交うようになった。なかでもham-Rのミックステープの連作発表は注目に値する。上にも書いたが、カニエウェストが毎週新曲をただで発表する方法を行って以来、USでもスウィズビーツやティンバランドといった大物プロデューサーがさっそく真似を始めたが、ham-Rはなんとミックステープを毎月発表するとラップした。この言葉は偽りではなく、これまでで通算5枚のミックステープが発表されている。そのうち、一枚(Future Vintage)は全編オリジナルビートで構成されたアルバムとも言うべき大作であった。そもそもUSとは異なり、ヒップホップ自体がドル箱産業ではない日本で無料で音源を公開することはリスキーであるとの見方もあると思うのだが、ham-Rをはじめとした多くの若手ラッパーはこぞってミックステープやフリーダウンロードの曲を公開しており、Jラップルネサンスとでもいうべきムーブメントになりつつある。
また、ミックステープという表現手段はヒップホップ以外のジャンルにも広がりつつある。マンションオンザムーンはどちらかというとエレクトロポップの出身であるが、デビュー前からディプロの主宰でミックステープが発表され話題を呼んだ。M.I.A.も大晦日にミックステープを発表した。ヴァンパイアウィークエンドのようなバンドがアルバム発表前にリミックス音源でミックステープを発表する日も近いのかもしれない。2011年もミックステープシーンの動向にも注目したい。